50代の男性。
ある日、突然耳鳴りが始まり、徐々に耳の痛みとして感じるようになったとのこと。それに伴って、不眠もあり、耳鼻科を受診したが検査上は異常がなく、聴覚過敏とみられるとのことです。
精神科も受診し、鎮静的な目的で投薬治療を受けているのですが、聴覚過敏自体はなかなか改善がみられないようで、発症から1年ほど経ったところで、からさわ薬局を見つけられてご相談に来られました。
糸練功で耳の状態を調べてみると、経別脈診では肝の陽証とみられました。
耳は五臓の対応では腎と言われますが、この方の症状は肝に顕著に現れており、東洋医学の肝にはいくつのかの意味がありますが、交感神経緊張が強い場合の肝ではないかと推測されました。
当初は、肝の気を巡らせて交感神経緊張を抑える漢方薬から選択して経過をみましたが、改善速度が遅く、もう少し体質的に踏み込んだ方法が何か必要ではと悩みました。
数ヶ月経ったところで、肝の熱を冷ます体質的な病態に用いる漢方薬がこれまでの神経症状を目標にした漢方薬より反応が良いことを発見し、その漢方薬をベースに、鎮静的な補助の組み方を検討して方針を変更しました。
ここから顕著に聴覚過敏の改善が始まり、精神科のお薬も減量が始まり、毎回改善がみられて順調に改善していくのがわかりました。
約1年ほどかかって、精神科のお薬も終了するとの報告を受けて、経過も大変良好だったため、漢方治療を終了しました。
臓腑経絡の判断は当初から一貫して間違っていませんし、精神神経症状による聴覚過敏という捉え方も間違っていないと思いましたが、ではどんな漢方薬を使うかというところが難しいところです。
精神神経症状によく使う漢方薬なら…という発想から広げて、より体質的なものを目標に考えたところに答えがありました。
長年、漢方を勉強してきたので、ほとんどの漢方処方の内容や使用目標は熟知しているつもりでも、本に書かれていることが全てではなく、時には縦横無尽に臨機応変に応用することが漢方ではとても大切です。それもわかってはいるものの、経験の少ない症状ではその一歩が難しいことがあります。そういった経験が長年の臨床で思えば数多く蓄積されています。この症例もとても勉強になる経験でした。また同様のご相談があった際には応用できる可能性があり、大きな進歩です。